新型コロナウィルス(COVID-19)の流行は,サービス産業界に留まらず,地域や家庭のような広義のサービスエコシステムにも影響を及ぼしています.例えば,
- 子供への公教育が滞るなか,子供の健やかな成長のために地域のサービスシステムはどのような役割がもとめられるのだろうか?
- テレワークによって生活と仕事の場が一体となった状況で,家庭内の共創的コミュニケーションをどう進めていけばいいのだろうか?
- 物理的な社会的サポートを得にくい中で,高齢者が日々の生活を孤独感なく営めるためにはどのような新たなサポートが必要だろうか?
これらは,我々が人間として・社会として,困難に打ち克ち,より良く生きていくために重要な問いです.サービス研究の一分野にはそうした問いをもとに価値共創や活動主体の行動変革の視点から研究をする,Transformative Service Research (TSR)があります.
我々はTSRとしての一連の研究から,サービス活動に少しの視点を追加することで,関係者の行動変革,とりわけ利他的行動を生み出せる可能性を見出し,それをサービスのデザイン枠組みとして構想してきました.利他的行動は,外出自粛やマスク着用のように,自分が感染するリスクの回避はもとより,他者に移さないようにする行動であり,感染の拡大を押さえる最も重要な要素の1つです.
また,感染拡大の混乱の中でなぜ社会の安全を脅かす価値破壊的行動が起こるのかについても考えています.例えば,意図的な伝染を誘発する暴挙や,SNSを通じた悪質なコロナチャレンジや買い占め扇動,自分ごと化の欠如による3密の非回避など,伝染を顧みない逸脱行動およびその連鎖も見られます.こういった行動は複雑化したサービスシステムでは起こりうるものです.時に意図的であり,時に意図しない結果を生み出すような価値共破壊の発端にはリテラシーの課題や恐怖の感情,信頼性の欠如といった要素が関係していることを見出しています.
日本TSRコミュニティは,ここで記したような研究の成果や関連研究の知見をまとめ,これからのサービスの研究や実践に求められる視点や重要な問いを発信していく予定です.当たり前のようにできていた価値共創が何らかの原因で破壊されたとき,それを単に補強するのではなく,人間にとって・人間が生きていくうえでの社会ひいては自然生態系にとって何が求められるかを考えていきます.